ICT教育を導入し、 全国平均を大幅に上回る学力
地方の子どもの可能性を狭めない学習機会を提供したいと、山江村ではICT(情報通信技術)を導入した教育に力を入れています。現在、村内の各学校に無線LANを配備し、各学級に電子黒板を1台配置。タブレット型パソコンも、小学校3・4 年生は4人に1台、小学校5・6年生は1人1台、中学生には学校用と家庭学習用に1人2台与えています。
アナログとデジタルの使い分け
ICTの導入を打ち出しているものの、大切にしているのはアナログな学習方法と、デジタルな学習方法との融合です。 デジタルな学習方法は、今まで不可能だった学びを実現。理科では実験の様子をタブレットで録画して繰り返し観て考察することができ、 体育ではマット運動などで撮影した自分の運動の様子を後から振り返ることができます。
一方で、アナログな学習方法は個人の学びを深めるのに有効。 電子黒板は次から次に画面が切り替わるため、情報が残りません。 そこで、しっかりノートに残してほしいものは黒板にまとめていつでも目に入るようにします。 自分の中で考えを巡らせるのも、タブレットよりノートの方が効果的です。
導入による効果
小学校の社会科の授業を見学したところ、課題に対してグループでまとめた意見をタブレットから電子黒板に配信し、クラス全員がそれぞれ考えていることを把握できるようになっていました。 このようなスピーディな情報共有により、子どもたちがグループ内討論で自分の意見を発言する参加型授業の時間が増加。 授業に興味を示す子どもたちの表情は生き生きとしていました。
山江村の教育効果は数値にも表れています。グラフは2013年に全国の小学6年生を対象に行われた学力調査の結果です。 このテストが子どもたちのすべての学力を表しているわけではありませんが、どの科目でも全国平均を大きく上回り、知識を活用して自分で考える力が身についていると言えます。
山江村の二人の先生に聞いてきた、村のICT教育とは?
村内にある小学校の1つ、山田小学校。こちらで子どもたちに指導している2人の先生にインタビューしました。ICTの導入による先生方の取り組みや子どもたちの反応とは
—ICT教育に力を入れられてますが、当初どこかモデルにした学校はあったのでしょうか?
古賀先生 : 私が赴任したときにはすでにICTが導入されていたので、聞いた話にはなるのですが、当初はまだ全国的にもICT教育の成功実績が少ない状況だったようです。ですので、タブレットや学習ソフトなどが徐々に入ってくる度に私たち教員も実際に使ってみて、慣れながら進めていったのだと思います
—ICT教育が導入されたことで、先生方も授業研究に力が入りますね。タブレットを渡したときの子どもたちの反応はどうですか?
古賀先生 : タブレットをもの珍しく触りたいというだけの興味は子どもたちには長くは続かず、次第に機器を使って人に何かを伝えることに面白みを感じていくようになります。言葉だけでは説明しにくいことも、『ここがね』と示すことで友達にもうまく伝えられますよね
西口先生 : 機器を使って試行錯誤するようになり、一問一答ではなく粘り強く考える癖がついたかと思います
—デジタル機器を使いこなすのに、子どもたちの間での個人差はどのように埋めていますか?
古賀先生 : スマートフォンを日頃から使い慣れているので、タブレットも器用に使いこなしている子どもが多いです。それに、直接画面に書ける機能もあるので、タイピングで差が出るような授業は行わないようにしています
西口先生 : もちろんタイピングが苦手な子どもには、個別指導でその差を支援します。
—また、授業を見学させてもらったのですが、児童の授業態度がとてもよくて驚きました。
古賀先生 : 整った学習規律は山田小学校の伝統です。しっかりした上級生を下級生が手本にして受け継いでます
西口先生 : ICTは1つの道具であって、学ぶすべての土台は学習規律になります。黒板を見てほしいときに、手元でタブレットをいじられていたら教育効果がないからですね
—規律正しいのは伝統だったのですね。学校内にお邪魔した際も、子どもの元気な挨拶で迎えてもらえて気持ちよかったです
西口先生 : 子どもたちの素直で活発なところが山田小学校の魅力です。村自体が教育に情熱を注いでハード面を整えてくださるので、このように人が育っているのだとも感じます